こんにちは。
司法書士海埜です。
令和7年に、毎日新聞の報道で「(反社会的勢力である)○○会のトップが複数の不動産を家族信託によって移転し、福岡県警がこれを賠償逃れとして指摘した」との記事がでました。
記事では、この信託を一方的に「財産隠しではないか?」と疑いの視線で報道するものでしたが、その理解は本当に正しいのでしょうか?
該当の不動産の登記簿を見ますと、令和2年に信託登記を経由しており、当時、委託者であるAさんはある犯罪で収監中で、被害者に対し賠償責任が発生することは誰もが認識できる状況でした。 当然、Aさんご本人も、賠償責任によって財産を差し押さえられるリスクを認識していたと思われます。
福岡県警もこの信託を賠償逃れのための不法な行為と判断したようです。
確かに、信託された不動産は委託者から受託者に名義が変わりますから、債権者が不動産を差し押さえることはできなくなります。
しかし考えてみると、登記簿には「受益者A」と書かれています。
つまり、所有者だったAさんは、形式的には「所有者」ではなくなりましたが、受益権という財産権を依然として保有し続けていることになります。
ということは、債権者は不動産そのものの差し押さえはできなくても、受益権を差し押さえることができるということです。
信託は、債権者にとってはなんの影響もないのです。
それではなぜ、新聞が信託を「財産隠し」と騒ぎ立てたり、あるいは住宅ローンを設定している銀行などが「信託は所有権移転なので認めない」と言ったりするのでしょうか? 所有権が受益権に変わることで、どのような不利益があるでしょうか?
差し押さえ債権者側から見ると、受益権という権利になじみがないため、所有権の価値が損なわれてしまうという、論理ではなくあくまで感覚的な問題があるようです。
これには、信託を論ずるときに「倒産隔離機能」という文言が頻繁に使用されて、あたかも倒産したときに完全に手が出せなくなるかのような誤解を与えているというのも一因としてありますし、
信託登記上、「所有権移転」という登記目的が使用されるため、もともとの所有者が財産を失ってしまったという短絡的な考えにむすびつきやすいということもあります。
国税庁が定める「財産評価基本通達202」では、元本と収益との受益者が同じ人物である場合、その信託財産の評価額に、受益割合を乗じて計算する、ということが書いてあります。
これは、相続税や贈与税を計算するときの方法ですが、
要は、委託者と受益者が同一人に帰する家族信託においては、不動産そのものの価値と、受益権の価値は同等ということです。
もちろん、不動産がひろく通常の流通経路で市場価値を持つのに対し、家族信託の受益権はもともと流通性がないものとして設定されます。
なので差し押さえ債権者としては、そんな流通性がないもの(要は換金できないもの)を差し押さえても、どうしようもないということを考えてしまいそうですよね。
しかし、「譲渡または質入れできない」と信託契約で定められているとしても、その特約で差し押さえまでは排除できないと考えられているため、強制執行は可能です。 受益権換価の方法としては、信託契約を解除し、信託財産(不動産など)を受益者が直接所有権として受け取り、その後売却する方法があります。
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