家族信託の受託者が信託不動産を売却した後に、委託者兼受益者が亡くなった場合、決済までできるかどうか?
こんにちは。
司法書士海埜です。
今日は家族信託を利用されている方、これから家族信託を導入しようか検討中の方へ、「将来こういうことも起こる可能性がある」ということをご紹介しておこうと思います。
かなりレアケースではありますが、実際に起こったことです。
お父様(以下A)と息子様(以下B)との間で、家族信託契約を締結しました。
Aが所有する不動産を、Bが売却できるような条項が入っています。
その後Aは特養に入所し、そこで安定した生活を送っていました。
数年後、Bは信託された不動産を売却しようと決めて、売却活動に入りました。
その結果、大手デベロッパーが良い価格で買付を入れてくれて順調に話が進み、契約の日取りを決める段になりました。信託登記が入っていることは特段問題にならず、買主の理解は得られていました。
ところがここで誰も予想しなかったことが起こります。
Aの体調が突然急変し、一時、危篤状態に陥ってしまったのです。それまでAの体調は安定していて、特養で穏やかに過ごしていたにも関わらずです。
「なぜこのタイミングで!?」と誰もが思いますよね。
そこで関係者全員が考えたのは、「売買契約の締結をいつ行うべきなのか?」ということでした。
Bとしては、税制の控除を利用したい考えがあり、そのためにはAが亡くなる前に(信託契約の終了前に)売買を終わらせる必要がありました。
一方で買主としては、もし、Aが危篤状態の間に受託者Bと売買契約を締結したとして、そのあと代金決済前にAが死亡したら、売買契約は法的にどうなってしまうのか?という不安があるわけです。
後の方の問題、つまり「もし、委託者が危篤状態の間に受託者と売買契約を締結したとして、そのあと代金決済前に委託者が死亡したら、売買契約は法的にどうなるか」という点については、
私は個人的には「どうにもならない」と思います。有効だと思います。
普通に、受託者としての権限に基づいて売買契約を行ったのに、それが委託者の死亡により遡及的に無効になったりする、その根拠がどこにもないからです。また信託終了後の事務は清算受託者としてのお仕事として残るところ、売買代金決済はその清算事務の一部と考えられるからです。
ただこの場合、別の考え方もできて、信託契約はあくまで「受益者の利益のため」のものであり、受益者死亡後は受益者の利益を追求する必要がないのだとすれば、
受託者は決済まで行う権限もないということになります。
また信託案件ではない普通の不動産決済で、司法書士の間では「売買契約時のみならず決済時においても本人の意思確認が取れることが必須」というコンセンサスが一応あるのですが、その考え方を持ち込まれると(信託なので、委託者の意思確認はそもそも行う必要がないですが買主側の司法書士として必ず検討するところだと想像します)、決済までいけるのか微妙な感じになってきます。
どうにかしてうまく取引を成立させるためには、買主がリスクを感じる部分をケアする必要があります。
買主は当初、「もし委託者が死亡したときは、買主は売買契約を解除する」という特約を入れることを要求してきました。
ですが「解除する」という文言はいかにも強すぎるので結局「もし委託者兼受益者が死亡したときは信託が終わるので、買主と売主は協議の上、売買契約の白紙解除を選択することができる」旨の特約を付けることで解決となりました。Aは再び体調が落ち着き、事なきを得ました。
ちなみにもう一つの問題=「受託者としては、相続税制の控除を利用したい考えがあり、そのためには委託者が亡くなる前に(信託契約の終了前に)売買を終わらせる必要がある」という部分については、委託者の存命中に売買契約が締結されていれば控除を利用できるという税理士のアドバイスがあり、一安心しました。
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